直江津簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人等は無罪。
理由
本件公訴事実の要旨は
第一、被告人組合は組合員の事業又は生活に必要な物資の供給等の事業を営んでいるものであるが、被告人草間行栄は同組合の購買主任として同組合の業務に関し法定の除外事由がなく且つ同組合が新潟県知事の登録を受けていないのに計量器である四十貫台秤を別紙一覧表記載のとおり昭和二十九年八月頃から昭和三十年九月頃までの間同組合において新部耕三外十九名に対し合計二十台を代金十七万九千三百円で販売して計量器販売事業を行い
第二、被告人馬場利雄は肩書住居において計量器の販売を業としていたものであるが、前記の如く被告人草間行栄が右組合の業務に関し、法定の除外事由がなく且つ右組合が計量器販売の事業を行うにつき新潟県知事の登録を受けていないのに四十貫台秤を販売することの情を知りながら昭和二十九年七月頃から昭和三十年七月頃までの間合計二十台を右組合に送付し、もつて被告人草間行栄の計量器の販売行為を容易にして幇助し
たものである。
というのである。
ところで計量法第四十七条第一項の違反罪は計量器販売事業を行おうとする者の登録義務を規定し、行為者がその登録義務をなさないこと即ち命令規範に違反したことを処罰するいわゆる不作為犯か、あるいは計量器販売事業の登録を受けない者が計量器販売事業を行うことによつて成立する犯罪であるかを考えて見るに後者に属するものと解する。
(参照東京高等裁判所昭和二七、九、一六判決。広島高等裁判所昭和二七、四、三〇判決。名古屋高等裁判所金沢支部昭和二五、七、一〇及び昭和二七、二、一三判決。以上の判例は薬事法第二九条第一項に関するものであるが、同法条は計量法第四十七条第一項とほとんど同一の形式をもつて規定されている。)
そこでまず被告人草間の行為について検討する。
公訴事実によると被告人草間は被告人下黒川農業協同組合(以下被告人組合という。)が計量器販売事業の登録を受けないで被告人組合の業務に関し新部耕三外十九名に対し四十貫台秤合計二十台を代金合計十七万九千三百円で販売して計量器販売事業を行つたというのであるが計量法第四十七条第一項の販売とは不特定、多数人に対してなす目的をもつてなされる有償的譲渡行為を指すものと解するところ、取調べた証拠によれば、被告人草間は昭和二十九年及び昭和三十年の各七月中かねて被告人組合と取引のある被告人馬場から供出米が入庫されるまで四十貫台秤を保管してくれと頼まれ独断でこれを承諾し被告人馬場から送付した四十貫台秤を昭和二十九年度は約三十台を被告人組合の第一号倉庫に、昭和三十年度は四十五台を同第二号倉庫の下屋にいずれも梱包を施し且つ被告人馬場名義の荷札をつけたまま一括格納しておき売店又は店頭に陳列したり、あるいは組合員に台秤を販売する旨を周知せしめる方法をとつたようなことはなく、被告人組合の組合員である片桐一雄外十九名の者が供出米の出荷その他の所用があつて被告人組合に赴いた際台秤を見て被告人草間に対し台秤の買受けを申入れたので被告人草間は被告人馬場に連絡をとつた上同人等に右台秤を交付したもので同人等は自己の取引の相手方は被告人馬場であると思つており、しかもその期間は両年度を通じ産米収獲期の八月及び九月の二ケ月に過ぎなかつたことを認めることができる。
そして代金の支払については同人等の申出に基き被告人草間において便宜をはかり被告人組合の同人等の予金口座に供出米代金が振り込まれた後間もなくこれを一括して被告人馬場に交付し、なお被告人馬場は前記期間内において自ら台秤を他に販売したときはその都度所要数量を被告人草間より引渡を受けていたものであることが認められる。
しかして検察官の被告人草間に対する供述調書中本件台秤は被告人馬場の委託により販売したものである旨の供述記載がある。
いうまでもなく委託販売とは委託に基き自己の名をもつて他人のためになす物の販売を指し、受託者は自ら売主となり売買上の責任を負わなければならないものであるが、被告人草間においてかかることを理解し真に被告人組合の業務に関し委託販売をなす意図があつたものとは認めがたく(前記組合員中平田計司、新部子之吉の両名から現金払をなすについて値引の申出があつた際被告人馬場に連絡をとり代金の一部を減額している)供述調書中委託販売の言辞があるからといつてこれを捉えてただちに被告人草間の行為が委託販売であると断定することはできない。
されば前記台秤授受の態様を目して被告人草間が被告人組合の業務に関し、事業として台秤の販売行為をなしたものとはいいがたく被告人草間において計量器販売事業を行つたことを認めるに足りる証拠が十分でない。
しかして計量法第二百三十九条所定のいわゆる両罰規定により法人の代表者、従業員等が同条に定められた違反行為をなした場合にはその法人が代表者、従業員等と同一罪責のもとに処罰されるのであるが、前記説示のとおり被告人草間に罪責のあることが認められない以上被告人組合は何等の罪責を負わないものといわなければならない。
次に被告人馬場に対する前記公訴事実について考察するに被告人馬場が被告人組合に対し四十貫台秤を昭和二十九年度に約三十台、昭和三十年度に四十五台を送付(公訴事実には両年度の合計を二十台と記載してある)した事実はこれを認めることがでなるけれども前記説示の如く被告人草間の不登録販売罪を容易ならしめるため右台秤を送付したものとは認めがたく、しかも幇助者の幇助行為は正犯者の実行行為と一体となつて犯罪を成立せしめるにあるから幇助罪が成立するためには少くとも正犯者が犯罪を実行することを要するものと解するところ、正犯者として起訴された被告人草間において前記説示の如く不登録販売罪が成立しない限り被告人馬場の不登録販売罪の幇助としては犯罪を構成しないものというべきである。よつて刑事訴訟法第三百三十六条により被告人等に対し無罪の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。(昭和三二年八月九日直江津簡易裁判所)